2014年02月25日(火) 
 社会学の論文のなかでもっとも引用される頻度の高いもののひとつに「The strength of weak ties(弱い紐帯の強み)」 というパラドックスのような理論がある。1973年、当時ハーバード大学博士課程に在学中だったマーク・グラノヴェッター(Mark Granovetter)*1による論文である。この説は、緊密な社会的繋がり、例えば親友や核家族は力を行使するには適当だが、密なネットワークは高度に冗長な情報を持つため、探索にはほとんど無用であるとするものである。一方、弱いつながり、即ち単なる知り合い関係では情報の冗長性がはるかに低いため、探索には極めて有効である。

 しばしば情報は力よりも重要であるから、個人が発展していく(求職等)には弱い繋がりの方が家族や友人関係よりはるかに重要となる。グラノヴェッターの理論では、情報収集や情報伝達に優れているのは、日常的に接触し親しくしている人々との絆ではなく、むしろ接触頻度が低く、どちらかといえば普段は疎遠にしている人々との絆である。ネットワークでは、内部に存在する異なるグループをつなぐ「ブリッジ*2」の機能が重要で、ブリッジの連結機能は情報伝達や社会統合に優れて役立つものである。強い紐帯より弱い紐帯の方がこのブリッジの機能を発揮することが多いというのが論旨である。

 この説は、1970年、グラノヴェッターがハーバード大学の博士課程在籍中に行った調査に基づいている。彼はボストン郊外に居住する専門・技術・管理職の男性のうち、最近転職あるいは就職した人たち282人を無作為に抽出し、現在の職を得る際に決定的に役立つ情報を提供してくれたのは誰かを調べた。結果は、身近なよく知っている人より、どちらかといえば繋がりの薄い人から得られた情報を元にしていたことが多い*3と判ったのである。これは「よく知っている」人同士は同一の情報を共有することが多く、そこから新しい情報が得られる可能性は少ないが、「あまり知らない」人は自分の知らない新情報をもたらしてくれる可能性が高いからだと考えられた。強い紐帯より弱い紐帯の方が情報収集機能を発揮したのである。

 続いてグラノヴェッターは、就職先をみつけるにあたって人的つながりを利用した人の方が、直接就職先に応募した人よりも満足度が高いことを明らかにした。転職・就職の方法が職業安定所などの公的機関を使ったフォーマルな方法、人的なつながり、直接企業に応募する方法、その他のいずれであるかと、就職者本人のその後の満足度との関連を示したものが下表である。

職務満足度 公的 人的 直接 その他 合計
大変満足 30.0% 54.2% 52.8% 47.1% 49.1%
やや満足 46.0% 36.8% 32.1% 47.1% 38.2%
低い満足 24.0% 9.0% 15.1% 5.9% 12.7%
対象者数 50 155 53 17 275
(出所) グラノヴェッター(1988)「転職*4」より作成

 このような「あまり知らない」間柄を「弱い紐帯」と呼び、ブリッジの果たす役割の重要性を明らかにしたのがグラノヴェッターの功績である。これに対して安田雪*5は、想定される二つの反論を提起している。第一の反論は、現実には弱い紐帯の方が強い紐帯より絶対多いはずなので、弱い紐帯の方がより広い範囲を網羅し、より豊かな情報をもたらすのは当然である。すなわち本当の問題は紐帯の数であり、弱いから、あるいはブリッジであるから弱い紐帯が優れているということではない*6。第二の反論は、実証研究者が同様の調査をしても結果が安定しないことだ。調査によって必ずしも弱い紐帯を活用して就職した人の満足度が一貫して高いわけではなく、さまざまなバリエーションが出現する*7。このような差異が文化的なものなのか、あるいはグラノヴェッターの理論に不整合を生じさせる何らかの条件が地域や場所や対象者によって存在するのかは大変興味深いところである。(安田,2004)
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*1 スタンフォード大学社会学部教授で、現代の社会学に大きな影響を与えた社会学者である。彼の唱えた中で、最も洞察力を見せた説は「弱い紐帯の強み」(1973年)として知られる、共同体の中での情報の伝播に関するものである。
*2 現実社会では純粋なブリッジについてはみられないので、定義を緩和したものがローカルブリッジであるとグラノヴェッターは概念を取り上げてはいるが、その後の検証をみてもローカルブリッジがきちんと作業定義を与えられモデル化されていない。(安田雪,1999)
*3 決定した就職について情報を提供してくれた人の調査では、頻繁な接触相手からが16.7%、時々接触する相手からが55.6%、稀に接触する相手からが27.8%という回答が得られた。この分類では、頻繁な接触相手は1週間に2度以上会う人々、時々接触する相手は年に2回以上から週に1回までの人々、稀に接触する相手は年に1回未満の人々とされている。
*4 Getting a Job(1974:1988)
*5 1963年東京生まれ。86年国際基督教大学教養学部卒業、93年コロンビア大学大学院博士課程修了(Ph.D)。国際基督教大学非常勤講師、立教大学助教授などを経てGBRC社会ネットワーク研究所所長、東京大学ものづくり経営研究センターCOE特任助教授。
*6 数理社会学者の盛山和夫氏の反論。
*7 経済社会学者の渡辺深氏が転職者を対象に調査、分析を行ったが、むしろ強い紐帯のほうが役に立つという結果が出た。(1998)

閲覧数3,584 カテゴリ読み物 コメント5 投稿日時2014/02/25 06:22
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