2014年04月02日(水) 
昨今、先進諸国における地域社会が抱える問題には枚挙に暇がない。わが国においても地域社会の変質が進行して、従来からあった地域や家族における結びつきや絆、相互扶助、さらには相互信頼が大幅に崩れてきている結果、地域コミュニティにおける個々の生活での疎外や孤立化はますます強まってきている。

結果として地域や個人の活力を減退させ、本来持っているはずの「豊かになる能力」を奪ってきている。一方、ニートや引きこもりの増大に見られるように、個人の行動や社会協力への無力化・無関心化、不安定な就業形態の常態化や失業の長期化、高齢者等社会的弱者を対象とした犯罪の多発により、個々人の地域コミュニティにおける生活の安心・安全・支え合いが根底から危ぶまれてきている状況にある。

こうした状況に対し、人と人との絆の劣化、相互扶助の精神や、相互信頼といった要素を回復し、こうした問題解決を図ろうという主張がある。たとえば、内閣府(2005)は、地域社会や地域コミュニティの抱える現状と問題について、次のように整理している。

(1)コミュニティを巡る様々な潜在的問題の発生
  ①個々人及びその周辺に起因する問題(1)
  ②産業構造の変化などに起因する問題(2)
  ③コミュニティの立地特性に起因する問題
(2)人と触れ合う機会や人間関係の希薄化(3)
  ①様々な問題の解決の糸口が見つからない(4)
  ②心配事の解消につながらない(5)
(3)潜在的な問題の顕在化
  (1)、(2)があいまって、時として大きな問題として顕在化するという悪循環が発生

 ここで強調されているのが、問題のきっかけを個々人のライフステージの変化。多様化に見出し、それが個々人間の触れ合いの機会や関係の希薄化を生じさせている点である。これを解消し、個々人の活力や地域の活性化および人々に豊かな生活を回復させるためには、社会的結びつきとしてのネットワークの再構築が必要と結論づけている。大江(2006)は、この個々の結びつきの希薄化によるコミュニティにおける人々の不安や不確実性の増加、自信喪失に起因する地域荒廃から生ずる様々な問題の発生は、わが国のみならず他の先進諸国においても共通してみられる(6)と報告している。

こうした地域の荒廃に対して、内閣府はもとより、欧米の多くの特に経済学・社会学と情報ネットワーク論を融合してその解決策を模索している論者たちは、これらの諸問題の解決にはソーシャル・キャピタルの整備が必要であると主張する。ソーシャル・キャピタルは、社会科学の分野で最近、最も人気の高い研究テーマのひとつであるが、これらの論者たちが言及するソーシャル・キャピタルの本質や現実的意味、さらにはそれが効果的に作用する分野や有効性についての結論は明示されておらず、現代社会の諸問題の解決策であるという説得力に欠けている。

一方、地域活性化についての実践的アプローチとして、1970年代末から現れてきた地域情報化に関する取り組みがある。当初わが国では、戦後日本の政策において常に重要視されていた「開発主義的発想」(7)が大きな影響を与えており、異なる省庁が似通った構想を推進したり、国策としての情報産業振興を地域に押しつけたことによる矛盾が生じたり、指定地域の計画が総じて大規模(8)すぎたなど、多くの課題を抱えながら1990年代まで続けられた。

これに対峙する動きとして、1980年代に現れたのが大分のコアラ、群馬県桐生市の渡瀬ネットなどという市民による「地域主義的」な情報化推進活動(9)である。具体的な成功事例を欠いていた政府の地域情報化政策にとってこうした萌芽は普及開発のための格好の材料となった。「地域活性化と市民参加」という文脈の上で、「情報民主主義」「水平的な市民社会の形成」を実現するための道具になりうると期待された。しかし、情報インフラの未整備や権威づけとして政府や行政を利用したことなどが障害となって、十分な地域住民の理解を得ることができず浸透させるには至らなかった。

その後、1992年のインターネットの民間開放、ウィンドウズの登場と低価格化によるパソコンの普及、急速なブロードバンド環境の拡大、携帯電話の通信利用の増加などにより、インフラレベルのネットワーク化は大きく進展し、情報通信ネットワークの利用者は層・量ともに一気に拡大した。2004年にはインターネット利用の新たな概念として「Web2.0」が発表(10)され、ネット社会に大きなインパクトを与えるとともに、これを活用した仕組みが世界的に拡大し注目されている。なかでも、代表的なWeb2.0的システムのひとつであるソーシャルネットワーキング・サービス(SNS )は、利用者同士を接続することにより、その関係性を可視化・顕在化しながら成長するウェブサイトで、様々な目的に利用されている。

わが国では、2004年に運用を開始した熊本県八代市が運営する「ごろっとやっちろ」の成功が引き金となり、地域に特化したSNS(地域SNS)の運用が徐々に拡大している 。なかでも、地域社会の諸問題の解決に活用することを目的としているサイトは、これまでの地域情報化が道半ばにして達成できなかった地域住民の能動性を引き出し、ソーシャル・キャピタルを顕在化することで地域力を向上させることが期待されているが、その設計思想や運用手法は未だ確立されていない。

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(1) 育児、進学、就職、福祉等、個々人のライフステージにおける諸問題。
(2) 産業構造の変化やそれに伴う企業の振る舞いの変化により、コミュニティやコミュニティ構成員への負荷が高まりつつある。
(3) 一定水準以上の富裕化の進行と、それに伴う家族機能の崩壊と私事化などにより、人と人が触れ合う機会が減少し、人間関係そのものの希薄化が助長されている。
(4) 地域の抱える様々な課題に対し、地域にある多様な資源を結集して対処していくといったムーブメントを起こしにくい。
(5) 生活する上での諸問題や悩みに関し、一人で思い悩み、誰にも相談できないといった孤立した状況に陥る傾向が高まっている。
(6) 例えば英国では、ニートの急増、失業者・求職者の求職期間の長期化、公立学校での暴力の増加・学級崩壊、人々の地域への協力意欲の減退など地域崩壊の問題点が指摘され、米国でも、英国でみられる問題に加え、学校中退、青少年の非行、地域暴力、貧困からの脱却不能ないしは固定化などの事態が問題視されてきている。
(7) 国家を単位として設定される政治経済システムの発想に基づいた政策
(8) テレトピア構想の第一次指定地域における事業費は1地域平均40億円(1985年3月9日付『日本経済新聞』朝刊,p.2)、1システム平均6億円(1985年8月24日付『日本経済新聞』朝刊,p.5)である。また、ニューメディア・コミュニティ構想の第一次指定地域における事業費は1地域平均8.5億円(1985年3月19日付け『日本経済新聞』朝刊,p.5)である。
(9) 「草の根BBS」という名前で全国に広がったパソコン通信ホスト局は、1988年には300ホスト以上に拡大した。
(10) オープン系プログラマー向け書籍を出版するオライリーメディアのティム・オライリーが、新しいウェブサービスをテーマとしたカンファレンスを企画するために考案した。

閲覧数4,314 カテゴリ地域SNS コメント3 投稿日時2014/04/02 06:52
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