2014年04月06日(日) 
 見知らぬ人と会話をしている内に、偶然共通の友人や事象が見つかって「世間は狭いですね」と語り合うという経験は我々の日常生活でよく見られる。このように、我々が普段感じているよりも、社会のつながりは小さいのではないかというテーマを扱うのが「スモールワールド」現象 という仮説である。これをはじめて実証的に明らかにしようとしたのが、アメリカの社会心理学者スタンリー・ミルグラムで、有名な「6次の隔たり(Six Degrees of Separation)」という概念は、ミルグラムが1967年に発表した"The small world problem"という論文から発展している。この概念は、「6人の知人の連鎖を介せば、世界中のすべての人間と間接的な知人関係を結ぶことができる」とい考え方で、古くから少ない知り合い関係の連鎖で世界中の人間すべてと間接的な友人関係を結べるのではないかといわれてきたが、これを実際に実験で試したのがミルグラムである。

 ミルグラムは、カンザス州およびネブラスカ州の住人の中から無作為に抽出した300人に手紙を渡し、直接面識のないマサチューセッツ州ボストンの受取人まで届けるよう依頼した。このとき、受取人の正確な住所は与えられず、郵便ではなく知人(ファーストネームで呼ぶような親しい人)経由で転送するように指示し、何人の仲介者が必要かを調べた。最終的には、160通の手紙のうち42通がボストンの友人のもとに届いた。多いものは10ほどのリンクを必要としていたが、少ないものはわずか2人の仲介者によって届けられていた。リンクの平均値は約5.5で、結果として6人以下でつながっていたわけである 。

 こうしてミルグラムが「小さな社会」の可能性に関する研究の端緒を開いてからは、さまざまな考察や実験が行われている。そのひとつが、社会学でもっとも引用される頻度の高い論文のひとつ、「弱い紐帯の強さ(The strength of weak ties)」というパラドックスのような理論である。

1973年、当時ハーバード大学博士課程に在学中だったマーク・グラノべターは、「親友や核家族のような緊密な社会的繋がりは力を行使するには適当だが、密なネットワークはその内部だけで非常に高度な情報交換関係を持つため、外部への情報収集がほとんど無用で能力が低下する。一方、単なる知り合い関係などの弱いつながりでは、情報の冗長性がはるかに低いため、情報収集能力が極めて高い。」として、情報収集や情報伝達に優れているのは日常的に接触し親しくしている人々との絆ではなく、むしろ接触頻度が低くどちらかといえば普段は疎遠にしている人々との絆であると主張した。すなわち、個人が発展していくには弱い繋がりの方が、家族や友人関係よりはるかに重要であると示したのである。

 この説は、1970年にグラノベターが行った調査に基づいている。彼はボストン郊外に居住する専門・技術・管理職の男性のうち、最近転職あるいは就職した人たち282人を無作為に抽出し、現在の職を得る際に決定的に役立つ情報を提供してくれたのは誰かを調べた。結果は、身近なよく知っている人より、どちらかといえば繋がりの薄い人から得られた情報を元にしていたことが多いと判ったのである。これは「よく知っている」人同士は同一の情報を共有することが多く、そこから新しい情報が得られる可能性は少ないが、「あまり知らない」人は自分の知らない新情報をもたらしてくれる可能性が高いからだと考えられた。強い紐帯より弱い紐帯の方が情報収集機能を発揮したのである。

 この論文の本質は、紐帯の強弱によるその影響力の比較ではなく、ネットワーク内部の異なるグループや人を橋渡しする「ブリッジ」の機能の重要性を説いたところだ。ミルグラムも実験の中で、より巧く手紙をリレーしてくれたのは、強いつながりより比較的弱い関係の知人であったと述べている。このように、ブリッジの連結機能は情報伝達や社会統合に優れていて、強い紐帯より弱い紐帯の方がこのブリッジの機能を発揮することが多いというのが論旨であり、グラノベターの論文の最大の功績であると言える。

 1994年1月、あるトーク番組でカレッジの三人の大学生が映画俳優のケヴィン・ベーコン(Kaven Bacon)と共演し、名前を挙げられた俳優をすべてベーコンの共演俳優の連鎖でつないでみせた。多くの映画に出演しているベーコンは、数多くの俳優たちと共演していることから、ハリウッドの俳優は誰もが平均して2つか3つのリンクでベーコンとつながる点に彼らは気づいていたのである。彼らは、ベーコン本人をベーコン数0として、ベーコンと直接共演したことのある俳優を1、その俳優と共演していると2として、遠くなる毎にベーコン数が1ずつ増えることとして、映画についての詳細な情報を提供しているインターネット・ムービー・データベースに登録されている俳優リストを調べた。するとベーコン数の平均値は2.946となり「六次の隔たり」を越えてほぼ3ステップで接続されていた 。

 ハリウッドの俳優のように、密度の濃いネットワークでは「六次の隔たり」は容易に達成される。またリンク数が1桁の俳優が41%もいるのに対して、ごく少数の俳優は10をはるかに越えるリンクを持っており、このネットワークでは多くのリンクを持つものがハブとして機能し、他の俳優たちをベーコンに近づけるのに役立っていることがわかる。

 ベーコン数と同じ考え方で、著名な数学者ポール・エルデシュとの共著論文の距離を示す「エルデシュ数」という概念もある。エルデシュは生涯、1500編あまりの論文を発表しているが、そのうち507編は共著である。エルデシュと共著論文をもつ者はエルデシュ数1。エルデシュの共著者と共著論文をもつ者はエルデシュ数2 と続く。科学界は高度に相互連結されたネットワークで、科学者たちは共著論文によって強い絆でリンクされており、ネットワークのサイズも小さい。数学者のネットワークはきわめて高度に接続されているといえる 。

 このように、スモールワールドの仮説に関する先行研究や実験結果から見て、6次の隔たりは証明されなくとも、社会ネットワークは我々が想像するよりもずっと少ないステップで接続されていることがわかった。また、そのネットワークは均質ではなく、ブリッジという橋渡し役の介在によって効率的につながっており、ブリッジは強い紐帯よりも弱い紐帯の方がより効果的であることがわかる。また小さな範囲であれば、6次の隔たりは容易に実現している事例も明らかとなった。

 ここから考察を深めるならば、我々が生活している地域にスモールワールドの仮説を組み込んでみることも可能であるはずだ。しかし、現実の生活感の中で地域の中の人々が3人や4人という小さなステップで繋がっているという実感はない。本来は繋がっているはずの人材がリンクされていない、または繋がっていながら可視化されていないからではないだろうか。すなわち、ブリッジとなる弱い紐帯を地域社会に導入することの必要性が明らかとなるのである。

閲覧数1,030 カテゴリ読み物 コメント0 投稿日時2014/04/06 06:50
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